令和6年9月6日 東京都障害者社会参加推進センター 第1回福祉講座 「ハラスメント」について  多久島岩ア法律事務所    弁護士 岩 ア 雄 大 いわさき かつひろ 1 はじめに (1)さまざまなハラスメント     ・セクシュアルハラスメント     ・パワーハラスメント     ・カスタマーハラスメント     ・モラルハラスメント     ・アカデミックハラスメント     ・アルコールハラスメント     ・スメルハラスメント     ・エイジハラスメント     ・ロジカルハラスメント     ・時短ハラスメント     ・逆ハラスメント     ・ハラスメントハラスメント (2) 社会的な背景 @ 価値基準・社会通念の変化→「虐待」「いじめ」「差別」 A 権利意識の向上 (3) 最近の風潮 @ 言葉として普及したことにより、止めてください、と言いやすくなった A 形式的にあてはめることも容易になった→ 線引きが難しい、人間関係の悪化・萎縮にもなり得る 2 セクシュアルハラスメント と パワーハラスメント (1)セクハラとは 相手の意に反する性的な言動 (男女雇用機会均等法) ・「意に反する」 以下の弁明(言い訳)は通らない ・相手に嫌だと言われなかった(嫌な顔をしていなかった) ・セクハラになるとは思っていなかった ・「性的な言動」 ・必要なく身体へ接触する ・性的な事実関係を尋ねる ・性的な冗談、からかい、食事、デートへの執拗な誘い ・わいせつなものを配布・掲示する ・最近 特に注意が必要な言動 @ 妊娠、出産、育児、介護等に関するもの      「病院は休みの日に行けるだろう」      「男のくせに育児休暇を取るなんて」 A 性別による役割分担意識に基づくもの     「男は外で働くものだろう」     「子どもが小さいうちは、母親は子育てに専念すべき」 B 容姿への言及、性的指向・性自認に関するもの (2)パワハラとは 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動   + 業務上必要かつ相当の範囲を超えたもの   + 労働者の就業環境が害されること (改正労働施策総合推進法) ・ポイント@ 業務上の注意や指導を目的としても(内容は正しくても)、 その方法が相当性を欠けば(行き過ぎたら)パワハラになる 必要以上に人格を傷つける発言は要注意 (そんな言い方しなくてもいいのに、と周りが思うような言い方) いわゆる「悪気のない加害者」が生まれる要因   <上司として配慮すべきこと> ・注意のタイミング、時間、場所、頻度 ・部下の健康状態 ・事後のフォロー ・ポイントA 注意や指導を受けた側が不満に思ったとしても、それだけでは パワハラにならない (≠ セクハラ) 3 カスタマーハラスメントと「合理的配慮」 (1)東京都による条例化の動き 「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な 考え方」(令和6年7月・産業労働局)    カスタマーハラスメントとは? 顧客等から就業者に対する、「著しい迷惑行為」であり、就業環境を害するもの    「著しい迷惑行為」とは? 暴行、脅迫その他の「違法な行為」又は正当な理由がない 過度な要求、暴言など「不当な行為」 「違法な行為」 暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、 業務妨害、不退去 他    「不当な行為」 @ 申出の内容が社会通念上相当であると認められないもの ・事業者の提供する商品・サービスに問題や過失が認められない場合 ・申出の内容が、事業者の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合 A 行為の手段・態様が社会通念上相当であると認められないもの ・身体的な攻撃 ・精神的な攻撃 ・威圧的な言動 ・土下座の要求 ・執拗な言動 ・拘束的な行動 ・差別的な言動 ・性的な言動 ・従業員個人への攻撃 等 (2) 合理的配慮との関係   <条例案のポイント> @ カスタマーハラスメントの禁止   何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない ※ 罰則はなし A 顧客等への配慮   顧客等の権利(※)を不当に侵害しないように留意する   ※ 消費者基本法、障害者差別解消法、表現の自由など 「就業者が応対する顧客等の中には、障害のある人など、合理 的配慮が必要な人も存在します。 顧客等と就業者が対等の立場 に立って、相互に尊重する基本理念の下、顧客等の権利につい て十分に配慮する必要があるため、この規定を設けます」 <障害者差別解消法8条> 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。   2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、 その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (3)旅館を例に・・・   <旅館業法5条1項>    営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない   一・二 (略)   三・ 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定 めるものを繰り返したとき。   四(略)                            <旅館業法施行規則5条の6 >(抜粋) 次の各号のいずれかに該当するものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるもの 一 宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求(障害者差別解消法2条2号に規定する社会的障壁の除去を求める場合を除く) 二 粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動(障害者差別解消法8条1項の不当な差別的取扱いを行ったことに起因するものその他これに準ずる合理的な理由があるものを除く)を交えた要求であって、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの   <宿泊を拒否できる場合にあたらないもの(例)> ・ 聞こえない、聞こえにくい人への緊急時の連絡方法としてスマートフォンや振動呼び出しの利用を求めること ・ フロント等で筆談でのコミュニケーションを求めること ・ 見えない、見えにくい人が部屋まで誘導を求めること ・ 車椅子で部屋に入れるようにベッドやテーブルの位置の移動を求めること ・ 車椅子の利用者がベッドに移動する際に介助を求めたり、高いところの物を従業員に代わりに取ってもらうよう求めること ・ 介護者や身体障害者補助犬の同伴を求めること ・ 障害を理由とした不当な差別的取扱いを受け、謝罪等を求めること  4 終わりに   本日はありがとうございました    以 上